私はガレージ染色家である。アトリエのようなキラキラしたものは持っていない。ガレージに屋根はないので暑い日も寒い日も外で染め、雨が降る日は室内でできる作業をする。ろうけつ染めという名の通りロウを使うので、(ほとんど雪が降らない地域ではあるが)冬は低温でロウが割れてしまうから気を遣う必要がある。手間がかかるこの技法は日本独自の制作方法ではない。インドネシアという熱帯の気候で育まれた、伝統工芸である。
なぜ日本でBatik(ジャワ更紗)なのかという問いを立ててみる。そもそも私はぼーっとするのが好きなので、インドネシアでのんびり過ごすのも悪くない。暮らすならジョグジャはどうかな? なんて想像してみる。南国独特の空気を吸ってさらに「ネシアボケ」するのは目に見えてる。しかし、私にはやりたいことがあった。
かれこれもう20年以上前の話。アジアンブーム、そしてインターネット黎明期。当時私は朝から晩までPCの波にどっぷり浸かって仕事をしていた。勤めていた会社でこのまま年老いていくのかと鬱々していた。どっしりとした確かな手仕事を感じる何かがしたい。手工芸的な習い事を探して出会ったのがジャワ更紗だった。私が好きなのは紺と茶色の2色で作られた布(カインソガン)。日本にはない独特で不思議な模様が生み出す世界観。古い布や写真をトレースして柄を起こしてみるといろいろなことが見えてくる。模様を制作した人たちの創造性、感受性、繊細さ。日本と同じ島国で独自の文化を発展させてきた多民族国家、インドネシアへのリスペクト。繊細なロウ描きととダイナミックな染色という相反する性質を内在した布は本来分業で制作される。私はこれらを一人で行ううちに現代のカインソガンを制作してみたいと思うに至った。そしてようやくそれを形として表現できるようになってきた。

それとは別に、私自身が20代後半で何かが違うと感じ一つの決断をしたように、今違和感を抱えている人に対して、小さなことからでも新しく始めて見る大切さと、他人からすると無駄だと思われるかもしれなくても、私には必要なことを、この伝統工芸を通じて少しでも伝えられたらいいなとも思う。私自身がまだ道なかばの未熟者で、小さい頃から何にも変わってないと自分の性格に嫌気がさすことも多々あるのだけれど、最近ようやく準備段階からの卒業ができたっぽいので、温かい目で見ていただけると嬉しい。
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